「Imagine others」編集後記
えそらフォレスト株式会社の10周年を記念して制作されたビジュアルブック「Imagine others」。
これは、えそらフォレストがこれまで実践してきたこと、これから目指したいビジョンを言語化するプロジェクトの一環として作られました。制作に携わったのは、えそらフォレストの仕事を外からの目線で形にすることを期待されたクリエイターたち。どんな経緯で、なにを伝えるべく制作されたのか、座談会でうかがいました。
座談会メンバー Imagine others プランナー 中西信人(INVENTUS株式会社) コピーライター 鈴木祐介(株式会社パラドックス) アートディレクター 淵憲一(株式会社パラドックス) インタビュアー 浅野佳子(nico edit)
始まりは「で、他と何が違うのですか?」から
_最初から「ビジュアルブックを作ろう」というプロジェクトだったのですか?
[中西]もともとは違いました。私はえそらフォレストさんのブランド「HANAオーガニック」の海外展開を前職から数年にわたりお手伝いしています。もともと細田さんの考えにとても感銘を受けていたので、海外での展開に自信がありました。ところがアプローチ先から必ず聞かれるのが、「で、えそらは他のオーガニックブランドと何が違うのですか?」ということ。私自身はえそらフォレストの考えを理解して表現できているつもりでしたが、販売の現場ではなかなか伝わらない。そこで細田さんに相談させてもらったところ、ちょうど自分たちの考えを言語化する必要があると思っていたとのことで、ぜひそのプロジェクトにご一緒したい。どうしてもえそらフォレストさんの価値観を海外に紹介したいのです!と提案したことから始まりました。
以前仕事でご一緒したことがある鈴木さんのコピーワークが素晴らしかったので、一緒にプロジェクトをやっていただけるよう声を掛けました。
_鈴木さんは、この問いに、どのようにアプローチしたのですか?
[鈴木]まずは「浴びる」というところから始まりました。とにかくえそらフォレストのみなさんが、どんなことを考えているかを、たくさん、何度も、角度を変えて、浴びるようにうかがいました。その過程で他社との大きな違いだと感じた点が、「えそらフォレストがどのように考えているかを言葉にすること」ではなく、「それを僕がどう解釈するか?」を問われたこと。最終的には、僕が解釈して自分なりの答えを出すまでみなさんにつきあっていただきました。
僕自身は、今回言葉を作っていく上で、二つのことを考えていました。一つは、「ボーリングのヘッドピンのような言葉となること」。この言葉があるから、自然と物事が解決していく、自然と仲間が集まってくる、自然と考えが広がっていく言葉があるはずです。もう一つは、「世界観を作ることができる言葉であること」。えそらフォレストは、一社ではなく考えに共鳴するみんなで目指す世界を作っていく企業です。その化学反応を起こすためには、「何をやるか」ではなく「どうやるか」の価値観を共有できることがすごく大事。例えばAppleの「Think Different」のような、目指す世界をみんなで作っていけるキーワードはなんだろう?というのが、僕が頭の中でぐるぐると巡らせていたことです。
_それが「Imagine others」に結実したわけですね。どのようにしてこのワードにたどり着いたのですか?
[鈴木]まず、えそらフォレストのロゴが雄弁に語っていると思いました。この世界は人だけが生きているわけではありませんし、人だっていろいろ。動物だって自然だってある。プロジェクトメンバーと「これからの社会で、みんなが幸せになるにはどうしたらよいか」という議論を重ねる中で、私は「自分の目の前にいる人はもちろん、今ここにいない人、ここにないもの、自分以外のなにかについて想像をすることが出発点」ではないかと思い、そこから「Imagine」という言葉を持ちたいと考えました。
[中西]えそらフォレストでは、経済成長のみを是としない定常型社会の中で「事業を行うとは、商品を作るとは、ブランドであるということはどういうことか?」を常に問うています。それはこれまでの消費社会が是としてきたこととは異なるビジョンなのではないか。哲学や文化、事業戦略など様々な角度からその言葉に近づこうと挑みました。少しずつにじり寄って、その核心にあるのは「Imagine others」じゃないかと。
胸に抱えて眠りたくなるような佇まいのあるモノを
_なるほど。そして言葉を受け取って、ビジュアルで伝えていく部分を淵さんが担われたわけですね。
[淵]僕は、「Imagine others」という言葉とロゴを見た時に、感覚的にはすべて腑に落ちた感じでした。えそらさんの仲間になってくれる人の感性には、絶対ストレートに届くはずだと確信を持ちました。これは、僕がこれからは感性が共鳴する人と仲間になる時代だと思っていることにも通じます。
_今回はビジュアルブックという仕上がりです。中身は同じでも、この言葉にピッタリのメディアは、デジタルでも、リーフレットでもなく、ビジュアルブックだと考えたのはなぜでしょうか?
[淵]手にとった時、直感的に「あ、これは大事なものだ」と感じられる佇まいにしたかったのです。そこで、ちょっとゴージャスな上製本という仕様を選択しました。
もう一つ、会社のメンバーのエピソードを思い出したのです。小学生の頃ハリーポッターの新刊が出ると、その日のうちに手に入れて明け方まで読んで、ママに怒られたんだそうです。それでも離れがたくて、本を抱きしめて寝ていたという話を聞いて、いいなぁ、そんなふうに大切にしてもらいたいなあ、と。
_このビジュアルブックはどのように使う予定ですか?
[井川]社員やお取引先、これまでにお世話になった方にもお贈りしたいです。これまでやってきたことの再確認もできるし、これからの新しい仲間づくりにも活用できそうです。
[細田]採用にも使いたいですね。「ウェブを見てください」では伝わらない、「あなたのことを大切に思っています」というメッセージが伝わるような作りになっていると思います。
新型コロナウィルスが明らかにした「これからの世界」
_ちょうど「Imagine others」の制作時期は、今回のコロナ禍の時期と重なっていたそうですね。
[中西]プロジェクトメンバーとは、これから訪れるであろう定常型社会について話していたわけですが、その目の前でまさに世界が変わっていきました。えそらさんがこうありたいと考えている未来は、特異なものではなく、マクロ的に見てそちらの方なのだと実感した半年でした。
コロナ禍によって、みんな「自分はなにをしたいのか」を考え始めたはずです。それは僕がえそらの代弁者として海外市場から問われていたことと近しい内容です。「自分たちにはなにができるのか」「これから先、どのような会社になっていきたいのか」「何を大切にしたいのか」を個人も企業も考えざるをえない状況に置かれています。例えばこれまで中国というのは「モノが売れる場所」でした。しかしこれからは「中国の人たちになにができるのか」「世界の中で自分がどうありたいか」という視点が不可欠です。そしてこれは必ずこれからのビジネスの形にリンクしてくるはずです。
[鈴木]私は、このプロジェクトをやっていたからだと思いますが、周りを見てすごくいろいろなことを考えるようになりました。人口がどのくらい増えていくのか、2050年問題はどうなるのか。なんとなく分かっていたつもりでしたが、とにかくたくさん調べて考えるいい機会でした。そしてコロナがやってきて、世界は一瞬にして変わる、それも想像していなかったように変わるという体験をするわけです。
それによって、変わっていることに気づくには常に周りに意識を持っていなければならないけれど、意識さえしていれば変わっていく世界をおもしろくすることもできると、改めて思いました。
[淵]この本はストーリーに写真をつけていく紙芝居のような展開になっているわけですが、一番最初は宇宙の視点から地球を見る視点から始まります。それ以降、虫の目線や鳥の目線、上から見下ろしたり下から見上げたり、寄ったり引いたり。いろいろな視点の写真を選んでいます。
_本当ですね! ふだん見ている景色とは違う視点が提示されているのですね。
[淵]ところで、ジョン・レノンの「Imagine」は来年で発表から50年。ジョン・レノンが生きていた当時といまでは、その対象こそ違うかもしれませんが、他の目線から「Imagine」することは普遍的なことです。えそらさんは永遠を手に入れたってことですね(笑)。
楽しくなくちゃ、つまんない
_ところで「Imagine others」にふさわしく、えそらフォレストには、個性豊かなスタッフのみなさんがいらっしゃいます。いろいろな人がいることは、ノイズではなく可能性でしょうか?
[細田])僕はそう思っています。ただし東西南北バラバラの方向に向かっても、船は進みません。120°くらいの角度の中であれば、あっちに行ったりこっちに行ったりしながら、とにかく向こうに行けるかなぁと思っていますね。
_もう一つ受けるイメージは、なんだか楽しそう…ということ。
[中西]そうですよね。サステナビリティ(持続可能性)といっても、暗い話をしたいわけじゃない。えそらフォレストのみなさんからは、―(マイナス)のものを0にするというより、0から1を生み出そうというポジティブなベクトルを感じます。そこは大きな個性です。
今回議論していて、サステナビリティが浸透していくには、それが「やるべきこと」ではなく「やりたいこと」になることが大事なのだと思いました。マーケティングとして売れるから、ではなく。えそらフォレストは「やりたくてやっている」から楽しそうで、だからこそそれに共感する人たちが周りに集まってくるのかな?と。
例えば「HANAオーガニック」で使っているブルガリアンローズだって、有限なもの。その適正なスケールを許容しながらお客様とどう楽しむのかというのは、新しいチャレンジでわくわくすることです。
_先にやっている人たちが楽しそうなのは、「あっちの方は、なにかよさそうだぞ」と後の人たちも続きやすいですね!
「Imagine others」に隠された秘密を、ちょこっとお披露目
_最後に、「Imagine others」の見どころを、教えて下さい。
[鈴木]自分が書いた言葉の話で恥ずかしいのですが、実は読むと分かるように「Imagine others」の本文は、文章としてはとてもでこぼこしています。なぜならつながっているようでつながっていなくて、あっちに行ったりこっちに行ったりしているから。これはあえてやっていて、本来思考は一方向ではなくいろいろなところに飛んでいるものです。その思考のプロセスをトレースしながら、最後に自分たちなりの結論を吐露する、という構成を取りました。
淵さんがその行き来を読み取り、ブックとして成立させるために、つながっていない文章を「めくる」という行為でつなげてくれています。
[淵]僕にとって印象深いのは、最後の2ページを使って、どうしてもやりたかった「ロゴを分解する」というアイディアを実現できたことです。僕は最初に見たときから、このロゴを分解したい衝動に駆られていて。というのも、バラバラにしたら、解釈がいかようにもとれるビジュアルができそうだなと直感したからです。それだけストーリー性のあるロゴです。
[細田]ちなみに、えそらのロゴは10年前に当時70歳くらいのデザイナーが作ってくれたもので、彼はみんながパソコンで作る時代に、あえてペンで描いたのです。企業ロゴはシンプルにすべしという時勢にあって、いいなぁと思いました。だからこそこんなふうに豊かなものになったのでしょうね。
[中西]僕からも「Imagine others」の「発明」について語らせてください。当初、必要な言葉の抽象度をどこに置くのか?についてめちゃくちゃ悩んだのです。いわゆる一般的な「社是」を作ることとは違う、ということだけは分かっていました。
じゃあどうしようと考えた時に、いい落とし所が見つかったのは、本当に最後の最後でした。それは「価値観を、企業を主語に語るのではなく、第三者の言葉で語る」ということです。
この方法にたどり着いたのは、「価値観を語る言葉」は未来永劫使われるたった一つの解だと思われがちですが、本当にそうなのか?と疑問を持ったからです。これまでの社会には絶対解が存在したかもしれないが、定常型社会にあっては多様性をもった複数解があってもよいのではないか。そう考えると、今回の「Imagine others」は、いまこの時点のこの瞬間のこのメンバーで考えたもの。また別のタイミングにはその時に出会った人とコラボレーションしながら紡ぎ続けていけばよいのだ、という考えに至りました。一つの言葉は、完成ではなくある意味の始まり。最終的にこの発明に至ったのは、今回のプロジェクトの大きな成果だと思っています。
_確かに。環境も人も会社もどんどん変わることを考えると、変化できる余地を内側に持つのは大切かもしれませんね。
[細田]例えばこの「Imagine others」を見ながら、「このプロジェクトではこういう文字と絵で、こういう解釈をしたけど、あなただったらどう表現しますか?」と問うことができます。解釈や表現はいろいろあっても良いと思います。正解がなにか、という話ではありません。正しいこと/間違っていること、いいこと/悪いこと、といった対立構造ではなく、寛容さの方に向かっていきたいですね。
_今日はありがとうございました。
実施日 2020年11月11日(水)zoomにて